その女性とはマッチングアプリ上で知り合った。綺麗な目と高い鼻を持った人だった。専門は水産学で、海洋生物の研究をしていると言っていた。新宿のカフェで会ってみると、知的好奇心旺盛な人であることがすぐにわかった。私はその女性に興味を抱いた。
ほどなくして緊急事態宣言が発令された。私はそのとき実家にいた。COVID-19の流行を重く見て、私は東京に行くのを自粛した。その女性の趣味の一つに園芸があった。何か育ててみてはどうかと言われたので、私もゴーヤを育てることにした。ゴーヤの生長を話題の種としつつ、その女性とやりとりを続けた。通話しながらどうぶつの森をしたのは楽しかった。秋には一度東京に行き、その女性とまた会ってきた。
昨冬だったか、日帰り旅行の話になった。地元を案内するので是非来てくださいと言われた。是非とも行きたかったが、ちょうど新型コロナウイルス流行の第三波の頃だった。暖かくなれば感染者数も減るだろうと踏んで、来年の春か夏に行こうと返事した。その女性も、楽しみですと言ってくれていた。もちろん私も楽しみだった。私はその人のことが好きになっていた。
年が明けた。あけおめのLINEは相手方から来た。私は、もう十分仲良くなれただろうと判断した。一方で私は、COVID-19の感染状況に苛立ちを覚えていた。いつになったら収束するのか。これでは全く埒が明かない。もとより自然に会える関係ではないわけだが、COVID-19のせいで余計に会うのが難しい。私は会うための理由を欲していた。それが仕掛ける動機になった。
2月上旬、14日に会えないかとLINEした。別の日の方が都合が良いと返事が来た。私は、「バレンタインチョコを作って渡したい」と言った。「!?!?」という返事の後、「無理してでも行きます」と返ってきた。念のためアレルギーも確認しておいた。聞けば、向こうもチョコレートを準備してくれるらしい。「交換会です」ということだった。これは本命チョコを交換しあって同時告白する流れだなと思いながら、私はラングドシャとラブレターを用意した。
当日、私の告白は保留になった。「その女性」は、本命チョコだとは予想していなかったと言った(*1)。
保留のまま、1ヶ月、そして2ヶ月が経った。LINEの返事は明らかに遅くなっていた。翌日には来ていた返事が1週間かかるようになり、やがて3週間経っても来なくなった。
5月、未読のままになっていたところにスタンプを送った。「埋もれていました」と返事が来た。そんなわけないだろうと私は思った。これはもう、いくら待っても意味がないと判断した。私はこう送信した。
「告白を撤回させてくれ。一人で突っ走ってしまってすまなかった」
これが私の降伏宣言だった。
告白を撤回したことで、どうにか普通にLINEの返事が来るようになった。こうするより他になかったと思っている。
そういえば2年前に振られたのも5月4日とかだった気がする。疲れた。全てSARS-CoV-2が悪い。
(*1)「好きな人いるって言ってませんでしたっけ」と言われた。そんな覚えはなかったが、「君のことやよ」と返しておいた。「目の下、隈がすごい」とも言われた。「君のことを考えて眠れなかった」と返しておいた。これは事実だった。
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