もう十分に時間は経ったと思うので、件の「初恋」について敢えて書いていなかったことを、私が忘れてしまう前に書いておこうと思う。
私と「彼女」は仲の良い友人だった。私にとって異性の中で最も仲が良かった人が「彼女」であるし、それは彼女にとっての私もそうだったのではないかと思う。
私は、彼女に尊敬や親愛の情を抱いていた。話の分かる奴、学問の悩みについても話しやすい相手、それが彼女に感じていた印象だった。私は、ずっと彼女と仲良しでいられたらいいなと思っていた。だが、年を重ねていくにつれ、かつては非常に親しかった友達も前より疎遠になっていきがちであることに気がついた。
私は、「もし、今まで会ったことのある人の中の誰かと結婚するとしたら、私は誰とずっと一緒に過ごしていきたいと思うだろうか」と自分に問うた。そうしたとき、自分の中にふっと浮かんできた答えが「彼女」だった。私の中の親愛の情が、恋心へと変質し始めた瞬間だった。
私が彼女に告白するまで長い時間を要したのは、その実、この気持ちをどう扱えばよいのかわからないというのが大きかった。普段は物理的に距離が遠く、どうアプローチをかけてよいものかわからなかった。また、自分の中に恋心があるという事態の重要性に自分でも気がついておらず、慌ただしい毎日の中、自分の気持ちに対して放置を決め込んでしまった。いよいよこれは大変なことになってしまったと理解したのは、学部3年の終わりの頃、バスの中で彼女の隣に座った時、緊張で足の震えが止まらなくなってしまったときのことであった。その日は緊張で眠れず遅刻してしまい、大失敗をしたと思ったものだった。だが、同時に、自分は彼女のことが好きなのだから、いずれ告白する前提で腹を括らねばならないとも感じたのであった。
このくだりを「初恋」に入れてしまうと、読む人が読めば「彼女」の正体が誰か分かってしまうだろうと私は思った。彼女は、私が「彼女」に告ったことを誰かに言わないでほしいと言っていた。だから敢えて入れず、極力ミスリーディングな表現を使ってぼかして書いた。その一方で、私は、言ってしまいたくて仕方がない、誰かにぶちまけて相談したい、真実を自分の中だけに抱え込むことなんてできないとずっと思ってきた。私は口封じされているのが苦しかった。もうあれから一年以上が経ったのだから、もう多少は他の人にバレてもいいだろう。どのみち私は徹底的に無視されているのだから、バレたことを許されるも許されないもないのである。
だから、アクセス数もほとんどないこの場所に、この文章を書いて置いておくことにする。
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